
政府が「異次元の少子化対策」と称し、(効果があるかはさておき)様々な少子化対策を打ち出す程、日本の少子化が深刻なのは誰もが知るところだろう。
実際、2022年時点の日本の出生数は約77万人、合計特殊出生率は1.26と、いずれも過去最低となっている。なお、2023年は出生数約72万人、出生率約1.20と、過去最低を更新する見通しだ。
そこで、子供たちの将来を懸念する二児の母として、日本の少子化について考えてみたいと思う。
少子化の主な原因
日本の少子化の主な原因として、未婚女性の増加、夫婦間の子供数の減少(※)が考えられる。
(※)出産が可能な女性の数自体が減っているという少母化については、日本の出生数が年々減少していることを踏まえれば当然なので、ここでは触れないこととする。
日本が人口を維持するために必要な出生率は2.07と言われており、単純に考えれば、日本の女性が2人以上子供を産めば少子化は解決する。
また、日本は婚外子の割合が2.4%と低く、結婚と出産が強く結び付いているため、日本の女性が2人以上子供を産まない原因として、そもそも結婚しない女性が増えている可能性と、結婚しても2人以上子供を産まない女性が増えている可能性が考えられる。
そこで、未婚女性の増加、夫婦間の子供数の減少について、それぞれ見ていきたい。
(1)未婚女性の増加
以下の図1は、女性の未婚率の推移を年齢別に表したグラフだが、1985年から2005年の20年間に、30代以下の女性の未婚率が急激に上昇したことが分かる。
これは、1986年に施行された男女雇用機会均等法の影響により、多くの女性が経済的に自立し、男性に養ってもらう生活手段として結婚する必要がなくなったからだろう。
図1:女性の未婚率の推移(年齢別)

以下の図2は、妻の初婚年齢別にみた、夫婦の結婚当時の予定子供数と実際の子供数の分布を表したグラフだ。
このグラフから、2人以上の子供を持つ夫婦の割合は、妻の初婚年齢が25歳未満の場合は86.1%、25~29歳の場合は75.4%と高水準だが、30~34歳では56.7%、35歳以上では34.3%まで低下することが分かる。
図2:妻の初婚年齢別にみた、結婚当時の予定子供数と実際の子供数の分布

(2)夫婦間の子供数の減少
以下の図3は、夫婦間の子供数の推移を表したグラフだが、1970年代から2002年までは2.2人前後で横ばいだったものの、2005年から低下を続けており、2021年時点では1.90人と過去最低になっていることが分かる。
図3:夫婦間の子供数の推移

以下の図4は、夫婦間の平均理想子供数と平均予定子供数の推移を表したグラフだが、いずれも低下しているものの、2021年時点で依然として2人を超えていることが分かる。
図4:夫婦間の平均理想子供数と平均予定子供数の推移

以下の図5は、夫婦間の理想の数の子供を持たない理由を表したグラフだ。
2021年時点の上位3位までの理由を見ると、子育てや教育にお金がかかりすぎるから、高年齢で産むのはいやだから、ほしいけれどもできないから、となっている。
また、上位3位までの理由について2002年からの推移を見ると、子育てや教育にお金がかかりすぎるからという理由は低下している一方で、高年齢で産むのはいやだから、ほしいけれどもできないから、という理由が上昇していることが分かる。
図5:夫婦間の理想の数の子供を持たない理由

(3)まとめ
以上を踏まえると、少子化の主な原因は、20代以下の未婚女性の増加と言えるだろう。
確かに夫婦間の子供数は減少し続けているものの、2021年時点でも夫婦間の出生児数は1.90人と2人を大幅には切っておらず、現在も結婚した女性の多くは2人の子供を産んでいることが分かる。
なお、予定子供数が理想子供数を下回る理由として、「子育てや教育にお金をがかかりすぎるから」という経済的理由の次に、「高年齢で生むのはいやだから」、「ほしいけれどもできないから」という年齢・身体的理由が挙がっており、夫婦間の子供数が減少している理由についても、女性の年齢が影響を及ぼしている可能性がある。
最も有効な少子化対策
上記のとおり、日本の少子化の主な原因は、20代以下の未婚女性の増加である。
つまり、少子化対策として最も有効なのは、20代以下の女性の結婚を増やすことだ。
逆に言えば、児童手当、保育園増設、保育料無償化、高校無償化などは、あくまで子育て支援策であり、残念ながら少子化対策としての効果は薄いと考えられる。
では、20代以下の女性の結婚を増やすためにはどうしたらいいのか?
それを考える際には、まず、そもそもなぜ20代以下の未婚女性が増加しているのかを分析する必要がある。
20代での結婚を望む女性が減っているのか、20代での結婚を望んでいるがそれが難しい事情があるのか、あるいはその両方なのか。
これについては、次の記事で考えていきたいと思う。
最後に、この記事を書くにあたり、厚労省やこども家庭庁が公開している資料を参考にしたのだが、その際に不可解に感じた点と、それに関する自身の仮説を述べて締めたいと思う。
世の中には、少子化の本当の原因は夫婦間の出生数ではなく未婚率の上昇にあることを指摘する言説が既に数多く存在している。
また、統計分析ができない自分でも、政府機関である厚労省やこども家庭庁が公開しているデータを見て、少子化の主な原因が20代以下の未婚女性の増加にあることが分かった。
つまり、政府は少子化の本当の原因にはとっくの昔に気付いているはずなのだ。
それにもかかわらず、政府が未だに「少子化対策」と称して子育て世帯への子育て支援を続け、20代以下の未婚女性の増加に言及しないのはなぜなのだろうか。
個人的には、以下のような理由があるのではないかと憶測しているが、もしそうだとすれば、政府は本音ベースでは既に少子化問題に匙を投げているのかもしれない。(国民に高い税を課し、世界3位の高い議員報酬を得ている国会議員の皆さんには、匙を投げるのではなく、ぜひ少子化の原因を正しく把握・分析し、それを改善する政策を実行してほしいものだ。)
- 人権や多様性が重視される時代において、政府が女性に対して20代での結婚や出産を奨励するなど前時代的であり、当然女性に結婚や出産を強制するわけにはいかないので、国民から猛反発を食らった挙句、結局何の成果も得られない可能性が高い。(実際、たびたび某大臣や議員の「女性は3人以上の子供を産み育ててほしい」やら「女性は男性にもっと寛容になって結婚してほしい」やらの失言が大炎上したのは記憶に新しい。)
- 女性に20代での結婚や出産を奨励し、仮に多くの女性たちがこれに従い行動した場合、大学卒・大学院卒の女性は、社会人になってまだ数年のキャリアを積む前に産休・育休に入ることになる。これは企業にとっては痛手であり、女性の採用を控える企業も出てくるだろう。一方、それは政府が推し進めてきた男女雇用機会均等法や男女共同参画社会、女性活躍の実現に相反する事態である。つまり、真に効果のある少子化対策をやろうとすると、自分たちが推し進めてきた政策と矛盾してしまうので、効果が薄いことは分かりつつ、ひとまず少子化対策として子育て支援を拡充している。