若年未婚女性の増加理由~可処分所得の減少と女性の上方婚志向~

前回「日本の少子化を考える~主要因は若年未婚女性の増加~」にて、少子化の主な原因は20代以下の若年未婚女性の増加にあることを書いたが、今回はその理由を考えていきたいと思う。

若年未婚女性の増加理由

(1)可処分所得の減少

まず初めに、可処分所得の減少について触れたい。

なぜなら、大前提として経済的に余裕のない社会では、皆自分の暮らしに精一杯で余裕を持てず、なかなか結婚して子供を育てようという気持ちにはなれないものだからだ。

なお、発展途上国はこれに反して出生率が高いが、それは子供を労働力とみなしているからであり、一度高度経済成長を経験しその後衰退が続いている所謂”衰退途上国”の日本と比較するものではないと考えている。

図1は、物価指数・賃金指数の変動推移を表したグラフだが、実質賃金は右肩下がりになっており、2019年時点では、1990年より1割以上も減少していることが分かる。

また、かつては3%だった消費税率も今や10%まで引き上げられ、この先さらに引き上げられる可能性もある。さらに、ここ数年の急激な物価上昇については、言うまでもなく誰もが感じていることだろう。

図1:物価指数・賃金指数の変動推移

図2は、社会保険料率(従業員負担率)の推移を表したグラフだが、社会保険料率は年々引き上げられ、2019年時点では、1990年よりも負担率が1.5倍以上になっていることが分かる。
社会保険料率引き上げの主な原因は、急速な高齢化により高齢者への医療・介護支出が増大していることにある。昇給しても会社員の手取りがなかなか増えない理由の一つがこの社会保険料であり、社会保険料率の引き上げは実質の増税に等しい。
ちなみに、給与から控除される社会保険料のうち、健康保険料と厚生年金保険料は労使折半のため、会社が半額負担している。
そう考えると、ここ30年間にわたる社会保険料率の引き上げは、会社員の生活を苦しめ、仕事に対するモチベーションを奪い、会社の成長を阻んでいると言えるだろう。
まさに現代日本は、高齢者福祉により国が食い潰されようとしているのだ。

図2:社会保険料率の推移

上記をまとめると、現代日本においては、消費税率や社会保険料率の引き上げ、物価上昇により多くの国民の可処分所得が減少し続けており、暮らしは苦しくなる一方であることが分かる。
追い打ちをかけるようにこの先いくつもの増税が予定されており、未来が今より良くなるという希望を持つのも難しいだろう。
このような状況下では、結婚し将来に子供を残すことをためらう気持ちにも頷ける。

(2)若年未婚男女の結婚に対する意識と現実

図3は、18~34歳の未婚男女の結婚に対する意思を表したグラフだ。

男女ともに「一生結婚するつもりはない」と回答した割合は年々増加しており、特に2015年から2021年にかけての増加幅が大きく、2021年時点では男性は6人に1人、女性は7人に1人が一生結婚するつもりがないことが分かる。

一方、年々減少しているとはいえ、2021年時点では男女ともに80%以上がいずれ結婚するつもりであることも分かる。

図3:男女別結婚意思の推移

図4は、結婚相手紹介サービスを提供する株式会社オーネットが、2023年に成人式を迎える新成人618名(男女各309名)を対象に実施した「恋愛・結婚に関する意識調査」において、結婚したいと回答した男女が何歳で結婚したいと回答したかを表したグラフだ。
グラフを見ると、男女とも25歳が最も多く、25~28歳に集中していることが分かる。

図4:男女別結婚希望年齢

図5は、男女別平均初婚年齢の推移を表したグラフだが、2022年時点で男性31.1歳、女性29.7歳となっていることが分かる。
上の図4の結果と照らし合わせると、男女ともに、実際に結婚するのは希望時期よりも2~5年程後の場合が多いと言えるだろう。

図5:男女別平均初婚年齢の推移

(3)女性の大学進学率の上昇

図6は、学校種類別進学率の推移を男女別に表したグラフだ。

平成5年(1993年)頃から女性の4年制大学への進学率が右肩上がりに上昇し、男性との差は年々縮まり、2018年時点では約50%の女性が4年制大学に進学していることが分かる。

4年制大学や大学院を卒業した女性は、社会人1年目の時点でそれぞれ23歳、25歳であり、彼女たちの多くが社会人になってから最初の数年間は仕事に打ち込み、恋愛や結婚を後回しにしていると仮定した場合、結婚を考え始めた頃には既に20代半ば~後半になっており、実際に結婚するのが20代後半~30代前半になるというのは当然の結果だろう。

図6:学校種類別進学率の推移

(4)女性の結婚相手に求める条件の多さと上方婚志向

①若年未婚者が独身でいる理由

図7は、結婚意思のある25~34歳の未婚者が独身でいる理由を男女別に表したグラフだ。
このグラフから、減少傾向にはあるものの、男女ともに「適当な相手にめぐりあわない」が1992年から2021年まで30年間連続して1位になっていることが分かる。
また、まだ上位には挙がっていないものの、男女ともに「異性とうまくつきあえない」が他の理由と異なり右肩上がりで上昇していることも無視できない。
この理由については、マッチングアプリなどオンラインでの出会いの機会が増加したことも関係しているのではないかと考えているが、これについては別の記事で考えたいと思う。

図7:25~34歳の未婚者が独身でいる理由(男女別)

②結婚相手に対する女性の理想の上昇

図8は、結婚意思のある18~34歳の未婚者について、結婚相手の条件として重視・考慮する割合を男女別に表したグラフだが、濃い棒グラフが「重視する」、薄い棒グラフが「考慮する」で、上段が男性、下段が女性である。
1992年から2021年まで、どの時期を見ても女性の棒グラフ面積の方が男性の棒グラフ面積よりも大きく、女性の方が男性よりも結婚相手に求める条件が多いことが分かる。
また、1992年から2021年までの推移を見ると、以下のことが分かる。
つまり、ここ30年で女性が結婚相手に求める条件が増加し、女性の理想が高くなっていると言えるだろう。

  • 女性が男性の経済力を重視・考慮する割合は90%程度と30年前から変わらない
  • 女性が男性の容姿を重視・考慮する割合が67%→81%に上昇している。
  • 女性が男性の家事・育児の能力や姿勢を重視する割合が43%→70%に急上昇している。
  • 男性が女性の経済力を考慮する割合は26%→48%に上昇しているものの重視する割合はほぼ変わらず、その他の項目についても男性が女性に重視・考慮する割合ははほぼ横這いで大きな変化は見られない。

図8:結婚相手の条件として重視・考慮する割合(男女別)

出典:第16回出生動向基本調査 P.33 ※赤色部分を追加

 

上の図8からも分かるように、女性の理想が高くなり、経済力に加えて容姿や家事・育児能力まで求められては、非婚志向の男性が増えるのも納得だが、女性の結婚相手に対する理想が高くなっている理由として以下が考えられる。

  • そもそも人間は子孫を残す際、男性は身体負荷や制約がほとんどなく身軽なままなのに対し、女性は大きな身体負荷や制約を負いながら約9か月間にわたる妊娠期間を過ごし、出産時には激痛と命の危険を伴う。つまり、人間は子孫を残す点において、身体構造上、男女間に愕然とする程の不平等が存在する。これを踏まえると、子孫を残す相手となる可能性の高い結婚相手に対して、女性が男性よりも多くを求めるのは当たり前と言えばそうだろう。
  • 1986年に施行された男女雇用機会均等法により多くの女性が経済的に自立した。その結果、多くの女性にとって結婚は男性に養ってもらうという生活手段ではなくなったため、「せっかく結婚するなら容姿の良い人とがいい」と、女性も男性に容姿を求めるようになってきたのかもしれない。
  • 多くの女性が経済的に自立したとはいえ、結婚後の妊娠・出産を想定すると、女性は妊娠中のつわりや産後の身体ダメージ、育児により働けなくなったり給与が下がったりする可能性があり、妊娠、出産、育児により万が一自分が働けなくなっても男性のみの稼ぎで家庭を営めるような経済力を男性に求めているのだろう。
  • 現在は約7割の夫婦が共働きだが、女性が仕事に加え家事も育児も一手に担うのでは疲労困憊してしまう。実際、近年はメディアでワーキングマザーがワンオペ家事育児に疲弊する様子が度々報じられ、SNSでもワーキングマザーのワンオペ家事育児に伴う夫に対する愚痴や不満をよく目にする。結婚後も仕事を続けることを前提に、男性にも家事・育児の能力や姿勢を求めるようになってきたのだろう。

    だが、理想と現実の間には、大抵ギャップが存在するものである。

    図9は、20~39歳の未婚女性が結婚相手に求める年収と、20~39歳の未婚男性の年収の分布を表したグラフだ。

    女性が結婚相手に求める年収と実際の未婚男性の年収との間には大きな乖離があり、多くの女性が男性の経済力に関して、現実に対し高望み状態になっていることが分かる。

    図9:20~39歳の未婚女性が結婚相手に求める年収と20~39歳の未婚男性の年収の分布

    ③女性の上方婚志向

    図10は、結婚意思のある未婚者について、結婚相手に求める年収を性別・年収別に表した表だ。

    この表から、多くの女性は、自分の年収にかかわらず、結婚相手の男性に自分と同程度以上の年収を求める”上方婚志向”であることが分かる。

    一方、男性は、年収によって多少の傾向の違いはあるものの、女性の年収を気にしないか、自分と同程度以下の年収を求めていることが分かる。

    図10:結婚相手に求める年収(性別・年収別)

     

    図11は、図10の年収を結婚相手に求める理由を男女別に表したグラフだ。

    先ほど図8の説明でも述べたとおり、妊娠、出産、育児により万が一自分が働けなくなっても男性のみの稼ぎで家庭を営めるような経済力を女性が男性に求めている可能性があること、また、共働きが当たり前の時代になっていることを踏まえると、「この金額があれば自分の収入がなくても十分生活できる、または自分の収入とあわせて十分生活できると思うから」が男女ともに最も選ばれていることにも頷ける。

    一方女性は、これと同程度の割合で「自分の収入より多い方がいいから」を選んでいることが分かる。

    図11:年齢層別男女の賃金グラフ(2022年)

     

    上の図10および図11から、女性は結婚相手の男性の収入が自分より多い方がいいと考える傾向にあることが分かったが、現在の男女の平均賃金はどうなっているのだろうか。

    図12は、2022年時点の年齢層別の男女の平均賃金を表したグラフだが、29歳頃まで男女間の賃金格差はほぼなく、30歳以降徐々に差が広がっていくことが分かる。

    続いて図13は、女性の年齢層別正規雇用比率を表したグラフだが、30歳を境に正規雇用比率が低下していくことが分かる。

    先の図5のとおり、2022年時点の女性の平均初婚年齢が29.7歳、平均初産年齢が30.9歳であることを踏まえると、妊娠・出産を機に正社員からパートや派遣などの非正社員へ移行する女性が多いため、30歳以降で男女の賃金格差が生じていると言えるだろう。

    図12:年齢層別男女の賃金グラフ(2022年)

    図13:女性の年齢層別正規雇用比率(2021年)

    つまり、未だに「男女の賃金格差ガー」などと言われているが、現代日本において、未婚男女間の賃金格差はもはやほぼなくなっており、それにもかかわらず多くの女性が結婚相手に自分より年収の高い男性を求めていることが分かる。
    「自分より年収が高い=自分より上」とは必ずしも言えないが、そうと仮定した場合、多くの女性は結婚相手に自分より上の男性を求めているということになる。
    男女平等の名の下、男女の賃金格差がほぼなくなった現代においても、図8の説明で述べたとおり、結局子孫を残す際の男女間の身体構造上の不平等は覆しようがないため、女性は本能的に上方婚志向のままなのかもしれない。
    男女の賃金格差がない状態で女性が結婚相手に自分より年収の高い男性を求めた場合、必然的に年収の低い男性と年収の高い女性の未婚率が上昇するだろう。
    実際、図14は年収区分別の未婚率を男女別に表したグラフだが、男性は年収が低い程未婚率が高く、女性は年収が高い程未婚率が高くなっており、特に男性の年収の多寡と未婚率の関係性が顕著であることが分かる。
    先の図7で、結婚意思のある25~34歳の未婚者が独身でいる理由は、男女ともに「適当な相手にめぐりあわない」が1位となっているが、その事情は男女で以下のとおり異なっているのかもしれない。

    男性

    結婚したいが女性に結婚相手として見てもらえない・・・。

    女性

    結婚したいが結婚相手としていい男性がいない・・・。

     

    (5)まとめ

    以上を踏まえると、若年未婚女性の増加理由は、以下のとおり複数の要因が絡み合って生じていると考えられる。

    若年未婚女性の増加理由
    • 可処分所得の減少による非婚志向の増加

    • 女性の4年制大学進学率50%超による初婚年齢の上昇

    • 女性が経済的に自立したこと、結婚後も共働きが一般的になったことで、経済力に加えて容姿や家事・育児能力など女性が結婚相手に求める条件が増え、結婚相手として適当な男性が相対的に少なくなっていること

    • 未婚男女間の賃金格差がなくなっても女性の上方婚志向が継続しているため、結婚相手として適当な男性が相対的に少なくなっていること

     

    若年未婚女性の結婚を増やす方法

    (1)可処分所得の増加

    最も有効な少子化対策となる若年未婚女性の結婚を増やすには、まず何よりも国民、特に若年層の可処分所得を増やす必要がある。

    そもそも子育てにはお金がかかる。人を養い教育し育て上げるのだから当然だ。
    多くの若者が自分の生活に精一杯で余裕がない状態では、子育てと結び付く結婚をする気のない非婚志向や結婚しても子供を持たない子なし志向が増えるのも当然だろう。

    日本の未来を担う20~30代の若年層の賃金を低く抑えた上で、高齢者福祉のために高い社会保険料を負担させるのは、社会のあり方として明らかに間違っているのではないか。

    若年層の可処分所得を増やす方法としては、例えば以下の7つが考えられる。

    ただし、⑥、⑦を除き、①~⑤は政治や企業経営の問題なので、個人レベルでできることと言えば、選挙に行き政治改革を促すことだろう。

    選挙に行っても何も変わらないという意見もあるが、行かなければ何も変わらないどころか、長期にわたり不利益を被る可能性もあるのだ。

    1. 高齢者の医療費自己負担割合の引き上げなどにより、社会保険料を下げる
    2. 年功序列、終身雇用制度を廃止し、働かない”窓際社員”を解雇し、優秀な社員の待遇を上げる。
    3. システム化やAI活用により無駄な仕事をなくし、業務効率を高め、企業の労働生産性を上げる
    4. 倒産回避を目的とした中小企業への補助金をやめる。(参考:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2204/12/news051.html)
    5. 中抜き事業を廃止する。(参考:https://toyokeizai.net/articles/-/367691)
    6. 転職により収入を上げ、人材流出により待遇の悪い企業を存続困難にする。
    7. 副業をするなど、収入源を増やす

     

    (2)女性の積極性と自己理解

    日本の少子化の主な原因は若年未婚女性の増加ではあるものの、女性に対し「日本の少子化対策のために早く結婚して子供を産め」などと時代錯誤なことを言うつもりはない。

    ただ、18~34歳の女性の84%が結婚意思を持ち(図3)、大半の女性が25~28歳での結婚を希望している(図4)ものの、女性の平均初婚年齢が29.7歳まで上昇(図5)しており、25~34歳の未婚女性が独身でいる理由の1位が「適当な相手にめぐりあわない」(図7)であり、結婚相手の男性に求める条件が経済力に加えて容姿、家事・育児の能力や姿勢と増加(図8)しており、未婚男女の賃金格差がない状態で結婚相手に自分より収入の高い男性を求める上方婚志向を継続している(図10~12)ことを踏まえると、「本当は若いうちに結婚したかったが、結婚が遅れたり結婚できない女性」(以下不本意独身女性と呼ぶことにする)が、実は現代にはかなりの数存在しているのではないかという仮説に至る。

    不本意独身女性が今後も増えていくのは、本人たちにとっても幸福とは言い難い上、日本の少子化を加速させるため、全体最適からは程遠く大変もどかしい状態だ。

    そこで、不本意独身女性やいずれそうなるかもしれない女性に対し、以下を提案することで締めたいと思う。

    「不本意独身女性」にならないために出来ること
    • 自分の希望結婚年齢から結婚までの希望交際期間を差し引いた年齢=婚活開始年齢とする。(例:2年交際して26歳で結婚したい場合、婚活開始年齢は24歳)

    • 理想の男性からのアプローチを待つのではなく、いいなと思う男性には自分からアプローチしてみる。だめならさっさと身を引き、切り替えて次に行く。
      →恋愛に受け身な女性やシンデレラ症候群に陥っている女性は多いが、あなたの周りでも積極的に行ける女性はやはり理想の結婚相手と結ばれている傾向にあるのではないか?

    • 色々な異性と関わり、自分の嗜好を知り見る目を養う
      →自分は絶対こうだと思っていても、本当に自分が好きなことや嫌いなことは、実際に人と関わってみないと案外気付けないものだ。

    • 男性に高い理想を持つ前に、まずは自分のスペック(年齢、容姿、性格、収入etc…)を確認し、釣り合っていないのなら自分を磨く。
      →類は友を呼ぶと言うように、あなたの好むハイスペックな男性もまたハイスペックな女性を好む可能性が高いのだ。

    • 長ければ50年以上の共同生活である結婚生活をイメージし、結婚相手に求める条件に優先順位をつける。(例:経済力よりも性格、性格よりも金銭感覚や食の好みの合致、容姿よりも家事・育児能力etc…)
      →性格が合い、経済力、容姿、家事・育児能力もあるような、自分の理想をすべて満たす男性はまずいないと思った方がいい。男性も生身の人間であり、二次元キャラやアイドルなどあなたの推しではないのだ。

     

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